ニュースの概要
3Dスキャナー大手のArtec 3Dが、大規模な3D環境を処理して表示する新しいプラットフォーム「Artec Twins」を正式に発表した。自社の複数のスキャナーに加え、スマートフォン、ドローン、人工衛星などで集めたデータも一つにまとめて扱える。最大で数十億点にのぼる点群(=空間を無数の点で記録したデータ)を、リアルタイムで処理できるという。報じられた内容では、点群を間引くことなく、最大で毎秒200フレームの表示が可能とされる。生の計測データを、測れて見やすい形に整えて共有しやすくすることが狙いだ。なお、実際の性能は利用する機材やデータの条件で変わるため、導入前の検証は欠かせない。
引用元: Artec 3D、巨大な3Dデータをリアルタイム処理するArtec Twinsを発表(Metrology News)
分析・見解
点群を間引かない設計が現場の手戻りを減らす
3Dスキャナーで測ると、壁一枚や配管一本が、数百万もの点になる。工場一棟を測れば、点の数は数十億に達する。ところが従来のソフトは、このデータをそのまま表示できなかった。画面を動かすたびに固まるため、多くの現場では点を間引いて軽くしてきた。間引けば動きは滑らかになる。しかし細い配管や小さなボルトが消え、寸法の確認には使えなくなる。結果として、見る用と測る用でデータを分け、担当者が行き来することになる。
Artec Twinsが間引かずに高速表示できるなら、この二度手間が消える。見ているものが、そのまま測れるデータになるからだ。ただし毎秒200フレームは、条件の良い環境での最大値と考えるのが自然だ。実際に何台のパソコンで、どの画質で出るのかは、試して確かめたい。
機材の違いを吸収する統合の発想が価値になる
スマートフォン、ドローン、人工衛星。精度も範囲も異なるデータを一つの空間に載せることが、Twinsの大きな特徴だ。手のひらサイズの部品を測る高精度スキャナーと、広い地域を撮る衛星とでは、点の細かさが何桁も違う。この差を吸収して一つの地図に重ねられれば、工場全体はドローン、設備は手持ちスキャナー、部品は卓上スキャナーという使い分けが、一つの画面で完結する。
似た例は身近にある。地図サービスが衛星写真と地上の写真を重ねたことで、使い道が一気に広がった。機材ごとにソフトを替える手間が減れば、3D計測を始める敷居は確実に下がる。
競争の焦点は表示速度よりデータの出口にある
点群を扱うソフトは、すでに複数ある。建設や測量向けの専用ソフトが定着し、ゲームエンジンも点群の表示に対応しつつある。そのなかでArtecは、スキャナーのメーカーがソフトまで自社で持つという立場をとる。取得から表示までを一社でつなげるため、設定の食い違いが起きにくい点は強みだ。
一方で、他社製スキャナーのデータをどこまで読み込めるかは、公表された範囲では分からない。ここが開かれていれば、普及は一気に進むだろう。閉じていれば、Artecの機材を使う会社向けの便利な道具にとどまる。表示の速さよりも、データの出入りの自由度が勝負を分けると見ている。
更新を続けられる仕組みこそデジタルツインの肝
デジタルツイン(=現実の設備や街を、仮想空間にそっくり再現する取り組み)は、作ること自体が目的になりがちだ。作った後に更新されず、古い地図になってしまう例は多い。
複数の入り口からデータを足せる仕組みは、更新を続けるための工夫と読める。更新が続くかどうかは、新しいデータを入れる手間で決まるからだ。スマートフォンで撮った一枚が反映されるなら、専門の測量班を呼ばなくても、日々の変化を追える可能性がある。
ビジネスへの影響
まず自社の最も重いデータで試す
導入を考えるなら、全社展開の前に、手元で一番重いデータを使って試すのが確実だ。たとえば工場一棟分の点群を実際に読み込ませ、操作が重くならないか、寸法を測って誤差が許容範囲に収まるかを確かめる。確認する点は三つある。必要なパソコンの性能、他社スキャナーのデータの取り込み可否、データの保管場所だ。特に保管場所は、設備の配置が分かる情報を扱う製造業では、情報管理の部門との調整が欠かせない。
効果が出やすいのは改修計画と保全点検
最も効果が出やすい場面は、設備改修の計画と、保全のための点検である。配管の取り回しや搬入経路は、これまで現地を見ながらでないと決めにくかった。それが事務所の画面で済めば、出張の回数が減り、関係者が同じ画面を見ながら話せる。仮に現地確認が3回から1回に減れば、移動と立ち会いの費用は大きく変わる。
ただし、スキャンの回数を増やすほどデータ量は雪だるま式に増える。保存期間や整理の決まりを先に作らないと、誰も開かない巨大なデータだけが残ってしまう。
費用は機材より運用の人手で見積もる
価格は、現時点で報じられた範囲では分からない。ただ、費用の大部分はソフトの料金よりも、計測する人、整理する人、画面で確認する人の時間になる。担当者を決め、月に一度は更新する流れを作れるかどうかが、投資が生きるかの分かれ目だ。まず半年の試行期間を置き、現地確認の回数や打ち合わせ時間がどれだけ減ったかを数字で記録するとよい。その結果をもとに、本格導入の判断をしたい。