ニュースの概要
ソニーが開発した空間キャプチャーソリューション「XYN」が、米国とカナダで使えるようになった。構成は三つある。スマートフォンで撮影を案内するアプリ、撮影データから3DCGアセットを作るクラウドサービス、そして結果を映像制作用ソフトで表示するプラグインである。今回の更新では、小物や消費財に加えて、車両や大型の産業設備も対象に含まれた。もとは映像制作向けの色が濃い製品だが、対象が大きくなったことで、工場や設備を扱う業界にも話が広がる。撮影から3Dデータ化までを専門家なしで回せるかどうかが、今後の普及を左右するだろう。
引用元: ソニーの空間キャプチャーソリューション「XYN」が米国・カナダで提供開始(ProVideo Coalition)
分析・見解
専用機材なしで3D化できる敷居の低さが核心
これまで現物の3D化には二つの道があった。一つは高価なレーザースキャナーを使う方法である。もう一つは大量の写真から形を起こす写真測量(フォトグラメトリ=写真から立体を計算する技術)である。前者は精度が高いが、機材が数百万円から一千万円を超えることも珍しくない。後者は安いが、撮り方が悪いと形が崩れる。
XYNの狙いは、この二つの間を埋めることにある。スマートフォンのアプリが「どこをどう撮れば足りるか」を案内し、計算は雲の上のサーバーが引き受ける。失敗の大半は撮影段階で起きるため、そこを機械が支えるのは理にかなっている。
対象が車両や大型設備に広がった意味
小物の3D化は、競合も多い。ところが車両や大型の産業設備になると、話が変わる。反射する塗装、ガラス、金属の光沢は、写真から形を計算する方式が苦手とする素材だからだ。ここを実用水準に上げたと言うなら、技術的な前進は小さくない。
もちろん、見た目が美しいことと、寸法が正しいことは別である。映像制作で求められるのは、画面で本物らしく見えることだ。一方で製造や保守の現場では、ミリ単位の誤差が問題になる。今回の発表から、寸法の保証水準までは読み取れない。ここは導入前に自社で確かめるべき点である。
映像業界の道具が産業へ流れ込む流れ
ゲームエンジンや映像制作の技術が、建設や製造に転用される例は増えている。自動車メーカーが設計レビューにゲームエンジンを使うのはその典型である。XYNも同じ道をたどる可能性が高い。映像向けに磨かれた見た目の品質が、そのまま現場の説明資料や教育の素材になるからだ。
私が注目するのは、データを使う側の環境が最初から用意されている点である。3Dを作れても、見せる場所がなければ使われない。表示用プラグインまで一式で出すのは、利用の入口を揃える賢いやり方といえる。
北米先行が示す日本市場への波及
今回は米国とカナダが先である。映像制作や産業用途の需要が大きい市場で、使い方を学びながら磨く狙いだろう。日本の製造業や建設業にとっては、海外の事例を見てから動ける利点がある。ただし、クラウド処理を使うため、設備の形状データを社外に出してよいかという情報管理の判断が、導入の最初の壁になる。
ビジネスへの影響
まず小さな対象で精度と手間を測る
導入を考える企業は、いきなり工場全体を撮らないほうがよい。最初は、治具や交換部品など、寸法が分かっている物を一つ選ぶ。実測値と3Dデータを比べれば、許容できる誤差かどうかがすぐに分かる。撮影にかかる時間と、データが戻るまでの待ち時間も同時に記録したい。この二つが、既存のスキャナーとの比較材料になる。
使い道は検査より先に説明と教育が現実的
寸法の保証が不明な段階では、品質検査の代わりにするのは危うい。むしろ効果が出やすいのは、保守手順の説明、新人教育、営業での設備紹介である。実物を持ち出せない大型設備を、画面上で回して見せられるだけで、商談や研修の質は上がる。図面が残っていない古い設備の記録としても使いやすい。
データの持ち出しと保管のルールを先に決める
クラウド処理は便利だが、設備の形状は企業の資産でもある。どの範囲まで外部に送ってよいか、保管期間はどうするかを、撮影前に決めておく。社外秘の設備は対象外とし、公開してよい展示品や自社製品から始めるのが安全である。